進行表参考資料

つまみぐい勉強法」の没原稿です。reST形式です。

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勉強会のステップアップ
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開催をするにもコツがある
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座談会のログには「よしおかの勉強会第1法則」 [#] というものが出てきました。これは、勉強会を開催するコストよりも、勉強会を開くことによって得られるリターンの方が大きければ、それほど苦労せずとも頻 繁に開催されるというものです。当然のことながら、ここのコストとリターンというのはお金のことを言っているわけではなく、主催者にかかる労力・時間、お よび、満足感のことです。開催する手順については、この前の章で詳しく説明しましたが、本章では、コストを下げ、リターンを増やす方法を紹介していきま す。2009年は「勉強会ブーム」が到来しましたが、将来これが「勉強会疲れブーム」にならないように注意しましょう。

.. [#] 第二以降は本書執筆時点ではまだないそうです。

コストを下げる基本戦略
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日程を調整し、場所を探し、内容を決めて・・・というのを毎回繰り返すのは大変です。勉強会のコストを下げる方法はいくつもあります。難しい理 由は「リスク」にあります。リスクというのは、日本語での会話の中では「危険」と同義で扱われるのですが、本来は「振れ幅」です。日にちを決めるにして も、どの曜日にしても全員が参加できないので、どの曜日にしたらいいのか。会場を決めるにしても、キャンセル時の取り扱いが面倒などなど、いろいろな「振 れ幅」があります。その中で「えいや」と決断をしなければなりません。当然、参加できなくなった人には謝らなければならないし、ドタキャンの扱いに気をも んだり・・・などなど。苦労が絶えません。ストレスというのは「理想と現実のギャップ」にかかってきますので、「こうしたいんだけど、うまくいかない なぁ。もしかして僕の進め方がまずいのかも」と思ってしまうと、ストレスになり、心理的なコストは増大してしまいます。

それでは運営の人の人数を増やせばいいのか?というとそうではありません。分業すればコストが下がるというのは間違いです。もちろん、お金の計 算、ウェブでの告知、会場や懇親会の場所の確保など、それぞれ得意な仕事はありますので、苦手な仕事をまかせてしまう、というのは一つの手ですが、「あの 人が忙しくなってしまったので進まない」なんて事態になってしまったら元の木阿弥です。かえって管理のコストが増大してしまいます。

このような「振れ幅」に対抗する基本戦略としては、「がっちっと決めてしまう」もしくは「どっちに振れてもいいようにする」の二点になります。こうすることで、リスクを押さえ込むことができます。ビジネスの進め方と一緒ですよね?

場所と日時を固定してしまう
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勉強会主催者にアンケートやインタビューをしたのですが、基本的すぎてTEF北海道テスト勉強会の上田さんしか言わなかったのがこの方法です。 例えば、とちぎRubyの勉強会は第一水曜日、西那須野公民館と決まっています。GTDの勉強会は第四土曜日の午後にルノアールです。当然、会社の飲み会 とかの予定が入りそうになっても「あ、この日はダメです」と即答でき、主催者だけでなく、参加者も日程の調整が簡単になります。

日時と場所の固定が難しい場合でも、「半年先まで日時とコンテンツを固定してしまう」(Tokyo GTUGの松尾貴史さん)、など、早めの決定、早めの告知を心がけているコミュニティは多いです。また、ここに関しては「独裁的に決めてしまう」という人もいました。

費用の負担の低い会場にする
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特に初めての場合など、人数が読めない場合があります。貸し会議室や、ルノアールのマイスペースなどは、便利なところにあったり、設備がそろっ ていたりと便利な反面、そこそこの費用がかかる場所ではドタキャン対応が大変になりがちです。そのような場面で利用したいのが、公民館などの公共施設、も しくは参加者の会社の会議室が利用できるのであれば、人数の変動には強くなります。もちろん、何度も開催していて、人数の予測ができる場合にはルノアール 等も便利です。多少の条件はありますが、日本オラクルやマイクロソフト株式会社など、積極的にコミュニティに場所を貸してくれる会社もあります。

その反面、大手企業は入室の手続きが面倒だったり、仕事の都合もあるため、毎回の確保が難しい場所もあるでしょう。土日には消防法の管理者がい るかいないかで許可が下りない、ということもあります。公民館は圧倒的に安いため、ご近所さんのサークルとの競争が熾烈な場所では、数ヶ月前の予約会議に 参加しなければならなかったり、といった難点もあります。

早稲田大学(XPまつり)、東京工業大学(Make:)、東京大学(Pythonワークショップ)、いくつかの専門学校(オープンソースカン ファレンス)などの実績も多少ありますが、地域活性化に関する公開講座で聞いた話によると、地元の元気な企業との結びつきを強めたいと思っている大学や学 校はまだまだあるようですので、今後は学校の教員クラスと仲良くなって場所を提供してもらう、というのがポイントになってくるでしょう。参加者に学生がい る場合にも学校での開催が可能ではありますが、「卒業してしまうため、後継者を見つけなければならない」(電設部IT勉強会のつかだ@acopeさん)と いう課題があります。

懇親会はその場で決める
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懇親会もセットで行う場合、この懇親会の準備はコストが高くなりがちです。少人数ならば当日お店を探しても問題なく入れる可能性が高いので、あ えて「事前には何もしない」という解決策です。懇親会には「大幅な人数の変更は一週間前まで」など、人数を確定させなければならないという制約があり、当 日の欠席、キャンセル料はどうするのか?などの悩み事が増えてしまうという問題があります。事前の振り込みにするというのは当日の運営をラクにする方法に なりますが、事前の仕事がかなり増えてしまいます。最近であれば、ぐるなび、栃ナビ(栃木県なら)などのウェブサービスも気軽に使えますので、当日に手分 けして探すのは簡単になってきています。この作業は主催者でなくても問題ないので、参加者にも積極的にお願いするのも良いでしょう。

もちろん、100人規模の場合はお店側も困ってしまうのでこの方法は使えません。また、都市圏で飲み屋が多い所以外では少々やりにくい、という 欠点もあります。万能ではありません。とは言うものの、場所が土日のオフィス街だったりすると、20〜30人でもすぐに入れてしまったりします。このあた りは一般則としては書けませんので、みなさんが各自で工夫してください。

別のソリューションとしては、飲み食いできる会場にしてしまい、イベント終了後に各自近所のスーパーに行って買ってきてもらう、という裏技もあ ります。XPユーザグループのイベントで何回かこの方法を実践しました。難点としてはゴミが多く出てしまうため、持って帰らなければならないのですが、こ のときは「マイカップ、マイ箸を持ってきたら抽選の当選確率が増えます」というキャンペーンを行い、ゴミを減らす工夫をしました。

身内や参加者を頼る
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常連のメンバーのスキルが高い場合は、「じゃあ次○○さんお願いします」というだけでも、満足度の高いコンテンツができます。勉強会などに参加 し続けていれば仲のいい人で、スキルの高い人も増えてくると思うので、声をかけることができる人もどんどん増えていくでしょう。このメソッドで低コストで 毎回キャンセル待ちになるほど盛況な活動をしているのがPythonハッカソンです。主催者の中居さんは「こんな話も聞きたいよね」と、勝手にスケジュー ルに(仮)と付けつつメンバーを入れて決めていってしまいます。基本的に、技術者というのは自分の持っている知識を人に話したがる人は多いです。また、成 果発表みたいな感覚で、定期的に発表の場を持ちたいと思っている人も多いです。普段から相手が「話したがりのタイプ」かどうかを探ってみると良いでしょ う。

これの変形パターンとしては、最初に挨拶代わりに全員に話しをしてもらうというのがあります。グッド・アンド・ニューやポジションペーパーなど があります。グッド・アンド・ニューは最近あったこと、良かったことを一言ずつ話ししていきます。ポジションペーパーというのは本来は自己紹介を1枚のス ライドで行うモノですが、とちぎRubyでは数ページのスライドを作ってくる人も多く、15人ほどの参加でも毎回1時間ぐらいかけて行われます。15人ぐ らいまでの勉強会で、変化を付けるには良い方法です。ただし、時間のコントロールは忘れずに。

やりたい人にまかせる
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福井情報技術者協会のFujiwoさんが紹介してくれたのが「やりたいと言った人がやる」という方法です。別名「言い出しっぺの法則」です。当 然、提案するからにはモチベーションが高く「これを通じて、こういうことを学びたい」など、ビジョンがしっかりしている場合が多いでしょう。中には言うだ け言って、自分は手を出さない、という人もいますので、毎回成功するかは、その会の雰囲気と信用貯金によるでしょう。新しいものが大好きな、坂本龍馬タイ プの人が多ければ確実にうまくいく方法と言えます。

コンテンツを決める
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やる内容を完全に決めてしまうと、予習、復習などもやりやすくなるし、欠席してしまった後に自分で追いかけるのも簡単になります。よく使われる のが教科書を決めた勉強法です。とちぎRubyでは「dRubyによる分散・ウェブプログラミング」を教科書に勉強会をやっています。教科書で行う場合は ただやるだけではマンネリになってしまうこともありますので、圧倒的に詳しい人を一人は入れるというのは、一つの解決策になります。よく分からなかった場 合にフォローしてもらうなどが期待できます。とちぎRubyでは本の著者の咳さんがメンバーにいるため、深いところまで解説が入り、充実した会になってい ます。

コンテンツを決めない
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Python温泉、Plone/Zope勉強会、各種ハッカソンなどで最近良く見るのがこの方法です。主催者側としては、場所と時間の枠だけ確 保し、中で何をするかは参加者が自分で決めます。ハッカソンの場合はある程度方向性を決め、事前に計画を立てて、最後に発表という形式を取るものが多いで す。Python温泉は元々「プログラマーの慰安旅行」(増田さん談)という名目で始まったイベントで、無線LANが使える温泉民宿を貸し切って、後は各 自が自由にやる、という内容になっています。Pythonという名前は付いていますが内容は自由で、違う言語をする人も多いです。欠点としては、「教えて ください」というレベルの初心者の参加が事実上難しいことです。自分で課題を見つけられる人でなければ、ぼーっとしているうちに終わってしまうでしょう。

一方、完全に決めないとまでは行かなくても、「内容のジャンルは縛りを入れないで、テーマを色々変える」(一の研究会の大槻繁さん、ウェブテコの北方基一さん)という方もいました。

作業のテンプレート化
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講演者と日時の決定、場所の確保、懇親会会場の確保するという流れを決めることで、作業を複数人で持ち回れるようにするというものです。また、 流れがいつも同じだと、参加者側も動きが予測できるようになり、運営がいちいち気を回さなくてもスムーズに流れるようになります。XPユーザグループの運 営委員ではこれを「プロの参加者」「参加者のプロ化」などと呼んでいます。

.. note::

   「持ち回れるようにする」は想像。メリットの部分は後で確認する。要求開発のゆこ。さんに確認(名前はひも付かないように、希望)

お金の管理だけはしっかりする
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いい加減になってしまうと、必ず失敗するのがお金の管理です。キャンセル費用をリアルタイムに計算したり、参加しやすいように学生に配慮した金 額設定をしたりといった、突発での対応が必要になる場合もあります。必ず「お金といえばこの人」という人を必ず決めておきましょう。また、人数がそこそこ 確保できるなら、運営と会計は完全に分けて別の人にして、会計の人は会計に専念できるようにする、というのが理想です。堅実な山県有朋タイプの人が多いで しょう。一番力量が試されるのが懇親会の席です。キャンセルの対応、飲み放題ではない場所で「先に帰ります」という人に対して、費用を計算するなどの対応 が要求されます。私の知り合いでは、飲んでもお金の管理をきっちりとできる、会計のスペシャリストが二人ほどいます。

リターンを増やす基本戦略
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リターンを増やすには、学習の機会を増やす、内容の質を上げるの二つになります。

たまに大きなイベントをする
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普段聞けないような話を聞くために、いつもと違う人を呼んでみる、というのも一つのやりかたです。コミュニティ横断でこの活動を支援しているの が、日本Rubyの会の「地域Ruby会議」という活動です。栃木、札幌、名古屋、広島、九州、東京など各地のコミュニティを横断して、いつもよりも大き なお祭り的なイベントとして開催することで「他のRubyのコミュニティに行ってみようかな」と動機付けを行うしかけになっています。各地方のコミュニ ティのメンバーや、日本Rubyの会の理事クラスのメンバーも、積極的に自ら足を運んで盛り上げています。とちぎRubyでも、この地域Ruby会議を開 催したのがきっかけで常連になって、群馬から毎回通ってくる人がいます。

横浜カーネル読書会は、2009年に100回目の読書会の開催をしたのですが、主催の吉岡弘隆さんは1年ほど前から周到に準備を行い、開発者同 士の打ち合わせで東京に来ていた、リナックスの開発者のリーナス・トーパルズを始め、多くのカーネルハッカーを読書会に呼ぶことに成功しました。他のイベ ントに乗ってしまうことで、普段来てもらえないような人に来てもらう、というのは究極の勉強会ハックと言えるでしょう。

休憩時間を有効利用
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セミナー形式の場合は、講師役の人が話をするという一方的な勉強会になってしまいます。そこで活用したいのが休憩時間です。話を聞いた人が直接 講師の人に質問をしにいくことができます。もっと深い話しをしたり、人脈を広げるチャンスにもなります。また、講師の人もその場でフィードバックをもらえ ますので、お互いにメリットになります。そのためにも、休憩時間をあらかじめ長めに設定しておく、というのも一つの作戦になります。

また、参加者同士の会話も促進しますので、大きいイベントで、講師と参加者の対話が難しい場合でも効果があります。最初から全員が1テーブルに収まるようなコンパクトな勉強会で、雑談も頻繁に行われている場合にはわざわざ作る必要はないかもしれません。

時間制限をしない
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休憩時間に余裕があったり、時間延長ができるような会場であったりと条件はありますが、勉強会をしていて、話が盛り上がっていたら、そのまま延 長してしまうというのも一つの手です。盛り上がっているということは、それだけみんなの興味とマッチしているということなので、このタイミングを逃す手は ありません。

同じ理由から、話題が脱線してもそのままにしましょう。これも、元の話題よりも、そちらの話題の方が興味を持っているということかもしれないか らです。自分がまったく想定していない新しい知識が得られるというのが勉強会の醍醐味でもありますので、むしろ、この部分が重要です。本を読めば学べるよ うなことだけであれば、勉強会をするまでもなく、一人でもできますから。もちろん、大幅な脱線は嫌がる人もいるかもしれないので、このあたりは様子を見な がら調整していく必要があります。

オンラインツールの積極活用
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ここ数年のイベントでは、uStream, IRCチャット、twitterなど、会場に行かなくても、外部から会場の雰囲気を知ることができるような仕掛けが増えてきています。この原稿を書いてい る時に行われた、第一回Web学会では、uStreamの視聴者数が1500を超えました。Webでの中継というのは、確実に普及の一途を辿っていると言 えるでしょう。

IRCチャットを大々的に取り入れて大成功したイベントはRuby会議です。会場にはスクリーンが2枚用意され、会場からのツッコミのようなコ メントだけでなく、海外スピーカーのセッションはほぼリアルタイムで翻訳が行われて、言語の壁を超えて、なるべく多くの人が楽しめるように、という仕掛け になっていました。

もちろん、外部の人を楽しませるのが第一の目的ではありません。その場にいる人の満足度の向上が第一です。中継をやることで精一杯になってしま い、イベント自体を楽しむ余裕がなくなってしまっては元も子もありません。とはいえ、自分が行くことができない、地方でのイベントを見てみたり、継続して 行うようなイベントの場合には「なんか面白そうだから次の勉強会には行ってみようかな」と宣伝になる効果も期待できます。また、マルチトラックの大規模な カンファレンス形式のイベントの場合には、自分が聞くことができなかったセッションを後から見ることができたりもします。IRCのログやTwitterな どは発表者自身が、聞いた人の生の声を聞くことができる仕組みとしても有効です。

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